残糸ってなに?
残糸(ざんし)とは、衣料品を生産する過程でどうしても出てしまう余り糸のこと。
例えば、ニット製品を作る際には、色や編み柄を決めるためのサンプル作成段階で、たくさんの糸が必要ですが、その一部は最終的には製品に使われずに残ってしまうことがあります。また、うまく編めずキズになったり穴が開いてしまったりして、製品に出来ない「編み損じ」が発生することもあります。残糸を活用する方法はさまざまですが、昨今は、残糸を最小限に抑えたり、廃棄せずに再利用したりリサイクルをする取り組みを行っているニットメーカーも増えてきています。
BLUEKNITでも、残糸を有効活用しているブランド〈つかいきる課〉があります。〈つかいきる課〉を立ち上げた経緯や取り組みについて、有限会社佐藤ニットの佐藤理恵さんにお話を聞いてみました。
〈つかいきる課〉誕生のきっかけ
【BLUEKNIT】
〈つかいきる課〉を立ち上げたきっかけを教えてください。
【理恵さん】
コロナ禍の時に、他のニットメーカーさん同様に、うちもだいぶ仕事が減ってしまって。ただ内職をお願いしている人には仕事を出さないといけないミッションもあって。そんな時に、父が内職の人に仕事を出すために「余っている糸で靴下を作りたい」って言い始めて。〈つかいきる課〉が出来るよりも前の話です。で、その後に私が入社して、美大生の学生さんたちにインターン制度で来てもらったのですが、このたくさん作ったけど行き場のない靴下をどうするんだっていう話になって。じゃあ、ネットショップで販売しようってなったのですが、何か名前を付けないと伝わりづらいから、どうしようかって話し合いをしました。
「つかいきる課」の靴下
【BLUEKNIT】
学生さんがきっかけで立ち上げられたブランドなのですね。
【理恵さん】
そうなんです。この仕事をするようになって、残糸がすごく目に付いて、どうすんのこれって。残糸を有効活用して今後やり続けていくためにも、まずは「課」を作ってしまえって、〈つかいきる課〉ができました。
【BLUEKNIT】
〈つかいきる課〉というブランド名は学生さんと一緒に考えられたのですか?
【理恵さん】
ブランド名を考えたのは私なんですけど、「どう思う?エンドユーザーに伝わるかな?」など学生さんに相談しながら、一緒に決めていきました。
その他にも製品の下札のデザイン制作(このころはまだロゴが出来ていなかったので)、ネットショップ用の写真撮影から開設まで、2人がいなければ〈つかいきる課〉が世に出ることはなかったと思います。
有限会社佐藤ニットのロゴ
〈つかいきる課〉のロゴ
【BLUEKNIT】
〈つかいきる課〉のロゴは、どういうイメージで作られたのですか?
【理恵さん】
佐藤ニットの会社のロゴをちょうどその時に作っていて。で、同じデザイナーさんにお願いして作ってもらいました。新潟のデザインアワードで入選したみたいです。会社のロゴは、八王子の“8”やSATOの“S”、デザイナーさんと工場が交差するイメージですが、〈つかいきる課〉は、この真ん中の棒を取っちゃって、繋がるみたいなイメージにしています。
【BLUEKNIT】
糸が繋がるみたいな?
【理恵さん】
そうです。循環するみたいなイメージ。
手間は掛かるけど、長く続けていけるように
【BLUEKNIT】
〈つかいきる課〉は残糸を利用したブランドですが、残糸を使うことのメリット・デメリットを教えてください。
【理恵さん】
メリットは、やっぱり廃棄ロスを減らせるっていうところです。デメリットは、手間がものすごくかかる!100枚作った、でこれだけ糸が残ってしまったから使いまわそうっていうのだったら楽なんですけど、途中でキズになって最終製品に出来なかったり、編み上がったけど使えなかったっていうものとかをほどくところから始めるので。糸をほどいて、巻き上げて、また蝋引き(編みやすくするために糸にロウをしみこませること)をして、やっと編み機に掛けられるっていう。
【BLUEKNIT】
時間もとてもかかるし、大変な作業ですね。
【理恵さん】
そうなんです。すごく面倒な作業をしているので、ちょっとそこは手間かなって感じることはあるんですけど、そうしないとキズになった製品はそのままゴミ箱にいってしまうので、それではやっぱり環境によくないし、もったいないし。
糸の巻き上げ
【BLUEKNIT】
佐藤ニットさんでは、残糸を使った〈つかいきる課〉と残糸ではない〈SATO knit〉の2ブランドをされていますが、デザインで何か区別されていることはありますか?
【理恵さん】
特にはないんですけれど、残糸を使っているものはあまり大きいものは作れないので、なるべくコンパクトなものを作るようにしています。たまに、定番の糸が廃盤になってしまって、こんなにあるけどどうしようとか、どこかの糸屋さんが廃業するので引き取ってって頼まれた父が「なんとかしなくっちゃ」って引き受けた時にだけ、ちょっと大きめのセーターとかを作るようにしています。
【BLUEKNIT】
なるほど。残糸は糸の量が限られますからね。なので〈つかいきる課〉の製品は基本ベストが多いのですね。
【理恵さん】
はい。ほんとに循環させるっていう意味での〈つかいきる課〉としては、今後はベストに絞っていこうと思っています。
【BLUEKNIT】
モノづくりで大切にされていることは何ですか?
【理恵さん】
他にないものを作りたいって思っています。あと、面倒だからやらないよってしないことです。
【BLUEKNIT】
それって素敵ですよね。けっこう他のニットメーカーさんは、ちょっともうこれ手間がかかるからとか、面倒なものはお断りしようみたいな感じになるところもあるのですが、佐藤ニットさんはそれをされないっていうところがすごいなって思っています。
今後〈つかいきる課〉で、こんなものを作りたいとか、こんなことをしていきたいとかありますか?
【理恵さん】
効率的に出来るように、基本の形をいくつか決めて。って言っても、糸の太さによって後から調整はしないといけないんですけど。この糸だったらこの形がいいよね、この糸だったらこっちの形がいいよねっていう風にパターンで落とし込めるぐらいにはしていきたいです。そうじゃないと、ちょっと回らなくなっちゃうので。編み機が空いている隙間にさっと差し込めるような、そんな風にして、続けていけるようにしたいなって。大変だから辞めちゃうっていう風にならないように。
【BLUEKNIT】
そうですね。とても良い活動をされているので、長く続けていっていただきたいです。
私たちの選択、未来への道しるべ
このインタビューを通じて、残糸を使ったブランドのニットメーカーさんの取り組みについて知ることができました。残糸を再利用することで、高品質な製品を作り出すだけでなく、環境への負荷を軽減し、資源の有効活用や廃棄物削減など地球への貢献も果たされています。これからもこのようなサステナブルなアプローチを持つ企業が増えることを願っています。
私たち一人ひとりが選ぶファッションには意味があります。持続可能性を考えた選択が未来への道しるべとなることを忘れずに、私たちの選択が、ファッション業界におけるポジティブな変化をもたらす一歩となるように、BLUEKNITは進んでいきます。
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有限会社佐藤ニット 家族で支える東京のニット工場
織物の街、東京都八王子市にニット工場を構える有限会社佐藤ニット。ご家族4人で経営する体制は、ものづくりしたい人に寄り添い、ひとりひとりに対応する少数精鋭の強みを持っています。そんな優しさと強さを兼ね備えた有限会社佐藤ニットの社長の佐藤 祐幸さん、敦彦さん、理恵さんとBLUEKNITのクリエイティブディレクターを務める梶原加奈子さんとの対談の模様をお届けします。記事を読む