群馬県太田市、戦後に発達したニットの町。そんなニット産業も衰退の一途を辿っていた中、世界で最初にホールガーメント機を導入した株式会社イノウエ。ホールガーメントは縫製が必要なく、短納期にも対応できます。更に独自の技術を磨くことで、国内外へ発信し、年間製造量はトップクラスになりました。
今回は、そんな技術を持ち、新たに自社ブランドを発信する社長の井上さんとBLUEKNIT storeのクリエイティブディレクターを務める梶原さんとの対談の模様を、前編、中編、後編の3部に分けてお届けします。
後編では、地域のものづくりに対する考え方や次世代について語っていただきます。
【梶原】
時代の変化にはどのように対応していますか?
【井上社長】
何が自分に合うかは最初はやってみないと誰もわからない。やりながら合う仕事を探して、その中で気づくと思います。集中することも重要ですが、私が常に思っていることは、一歩先ではなく、半歩先を見て仕事をしてほしいと考えています。わからないまま進めると方向性が違う場合もあるので、少しずつ進めながら半歩先を読む力を身につけることが重要です。これからの時代は今までの時代と価値観がまったく違うので、半歩先だったら想像できると思います。
【梶原】
すごく大事な話だと思います。今の話を読み解いて、より多くの人に伝えたいです。 一歩先ではなく、半歩先というのは、様々な経験をした人は知っていると思いますが、それを10代や20代に伝えることも必要ですね。
社長が意識している言葉とか記憶に残っている言葉はありますか?
【井上社長】
今の島精機さんの会長が仰っていたことが記憶に残っています。考えるということは、高速道路に乗っていることと同じですと言っていました。つまり、動きながら走りながら考える。高速道路を走るときはスピードが早くないと入ることはできません。立ち止まって考えるのではなく、まずはやってみることが大事だと仰ってました。その言葉がすごく記憶に残っていて、確かにその通りだと思いました。
【梶原】
やりながら考えると言う言葉は社長にとってかなり大きい影響力がありましたね。
【井上社長】
知らないうちにいつも意識しているのかもしれません。半歩先で失敗すると2回戦ができます。失敗しても立ち直りができる時間は十分ありますし、どこもやっていないことは世界で初めてのことになるので、必ず強みがあります。最初からうまくいくことはありません。まずはやってみることが重要です。
若い人たちが活躍できる場であること
【梶原】
人材育成についての考えや、実行していることはありますか?
【井上社長】
この前ちょうどインターンシップ制度を実施したとき、何名か若い人たちがブランドを立ち上げたいので研修をしたいと来てくれました。いろいろ教えてあげようとしましたが、結局数ヶ月で辞めたいですと言ってきました。理由を聞いたところ、製造まで全部やりたいわけではなかったと言っていましたね。今後は作る側だけではなく、売る側としてもやってみたいそうです。しかし、インターンシップ制度での仕事は、やりたいことだけやればいいわけでもないと思います。やってみて初めてお互いに分かることもあるので仕方がない部分もあります。
このような経験もあって、これから取り組むBLUEKNIT storeでは彼らのような消費者に近いところでものづくりにも関わりたい人材が活躍できる場になって欲しいと期待しています。今までやってきた生産の経験を活かし、お客様に関わっていけるものづくりができるようになれば、社員も新しいチャレンジができるし、新たな経験をすることもできると思います。
BLUEKNIT storeに期待すること
若い人たちに魅力を感じられる会社になるために
【梶原】
モノづくりだけではなく、伝える、売る側のポジションも考えた上で人材の育成が必要だと思います。社長はどのように思いますか?
【井上社長】
我々はモノづくりの専門家だけど、作ること以外にも消費者に直接伝える為にやらないといけないことだと思います。才能がある社員さんがいればお互い相乗効果もあると思います。
私たちはこれからの若い人たちが納得できるような形で活躍できる場を提供することも大事だと思います。個人がやってみたいことと、会社が新しくチャレンジすること、お互いにこの部分がマッチングできることを願っています。1,2か月ぐらい短時間でこの仕事ができることはないので、長期的な観点をもって若い人たちにも考えてもらいたいです。
【梶原】
私の場合は、テキスタイル分野で長年仕事をしておりますが、今の話はすごく共感するところが多いです。先駆者は日本のモノづくりを教えて継承することがとても大事だと思います。でも、すぐにできることではないし、人と人の関係性もあるので教えることには時間もかかりますね。
【井上社長】
今の時代感を考えると、インターネットですぐに検索できたりするので、情報のスピード感も重要だと思います。ただ、ものづくりはすぐにはできないことが多いです。ある意味これからの世代にこのような感覚を教えていく必要があると思います。一瞬で教えることは難しいですが、少し長い目でみて将来この会社でこのような仕事ができるから楽しそうとか、この会社に勤めたいと思われる会社になりたいですね。
そのためには我々も常に工夫をし、どのように教えた方がいいか考えなきゃいけない。継続するために様々なことに挑戦し努力しないといけないと思っています。
梶原加奈子ディレクターの取材を終えて
1950年頃からメリヤス業を営み、1989年に世界で一番早くホールガーメントを投入した株式会社イノウエさんが今でも活躍しているのは、勇気を持った大きな決断力があったからこそだと思います。
若い頃から自ら経験しながら工夫してきた井上社長のお話しは、一つ一つが勉強になり、心が動く内容が盛り沢山でした。井上社長が大事にしてきた人との繋がりと人を活かす経営が株式会社イノウエさんの強みであり、長年企業を支え継続させてきた根幹にあるものだと思います。
群馬の太田産地にニットのものづくり出来る体制を残していきたい、これからもっと地域を盛り上げていきたいと熱量を持って話していた井上社長の言葉が今も鮮明に記憶に残ります。BLUEKNIT storeからも株式会社イノウエさんの活動や技術を多くの方に伝え、太田産地に訪れる人たちが増えていくように、これからの発信をサポートしていきたいと思います。
BLUEKNIT storeクリエイティブディレクター
梶原 加奈子
北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。
日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランドKANA COLLECTIONを立ち上げ、海外のハイメゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。
2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。
北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。
日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランド KANA COLLECTION を立ち上げ、海外の廃メゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。
2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。