
ホールガーメント®横編機で編み立て中の様子
時代の変化と共に変化した編み機の種類
【梶原】
自社の強みはどこにあると考えますか?
【大川社長】
「ホールガーメント®」から「成型機」まで、「ハイゲージ」から「ローゲージ」までの生産設備を擁して「一貫生産」が可能となっております。また、お客様により安心してお仕事をご依頼いただけるよう、品質・納期厳守のため、常に努力をしてきました。
【梶原】
大川社長とお話ししていると、時代に合わせて変化してきた柔軟性を感じます。編み機の進化についても、当時のことを教えてください。
【大川社長】
スペインの「アブリル」というコンピューター編み機を使っていた頃に、父が島精機製作所さんの先見性を感じていて、新しい編み機を増やしていきました。自動化の一番初めは、SFという目移しもできない、普通のゴム地を編むような機械で、うちの工場では半自動と呼んでいました。
SFと言う編み機から、海外のジャカードニット機、そして島精機製作所さんの成型ニット機を導入しました。成型編みができて尚かつインターシャ編みもできて、面白い柄が作れるようになり画期的でした。そして初めてホールガーメント®を導入したのは2001年です。島精機製作所さんの晴海の機械展に行き、父がすぐ機械を入れるからと言い出しびっくりしました。 ホールガーメント®はその10数年後に現れました。

島精機製作所のホールガーメント®横編機
先見の明、将来を見据えて取り組んだホールガーメント®
【梶原】
お父様は営業マンであり、家族で経営するファクトリーブランド的な構想もしていたプロデューサー的存在でしたね。15社から残り販売もしている1社というところには、名プロデューサーであるお父様の影響は大きかったのではないですか?
【大川社長】
父には常に将来のビジョンがありました。父が一番会社に貢献し残したのは、やはり島精機製作所さんの機械を導入したことだと思います。
【梶原】
それ以降、オオカワさんの設備は全て島精機製作所さんの機械になったのですね。お父様はこの会社が伸びるぞと思ってお付き合いしていくのも上手だったのではないですか?
【大川社長】
島正博会長の先見性を買っていたと思います。まだ半自動の機械しかなかったので、私にとってはとても意外でした。
【梶原】
ホールガーメント®をその後導入されていますが、取引先のお客様のご要望だったのですか?
【大川社長】
当社はOEMメーカーですので、お取引先様のご希望に、少しでもお応えできるようにしてきました。ホールガーメント®のハイゲージが出て、リブ成型がホールガーメント®でできるというのにかなり驚き、興味を持ちました。そしてメンズであまりリブは着ないのですが、着たらきっとすごく気持ちいいんじゃないかと思いました。縫製もないし、伸びるし。お客様ありきというよりはまず機械がいいんじゃないかという想像のもとに作り、お客様に見せてみたら好評でメインのお客様からもすごく気に入っていただきました。
その後も、お客様のご希望に沿えるように、15ゲージ、18ゲージと導入させていただいた編み機をはじめ、「多種多様な設備」をそろえて、アパレルのお客様の求める時代のニーズに対応してきました。ホールガーメント®は着心地の良さが最高との評価をいただいており、それは今でも変わらないようです。
【梶原】
地道に、脈々とお仕事をされてきたことが今のオオカワさんに繋がってきたのですね。素晴らしいです。オオカワさんのホールガーメント® のゲージの種類は?
【大川社長】
3G:1台、5G:1台、8G:2台、12G:4台、14G:6台、16G:5台、WG12G:2台、WG15G:2台、WG15XL:2台、WG18G:2台です。

自社製品販売の挑戦と苦悩
【梶原】
現在営業担当の息子さんの路生さんは、2000年以降の減少傾向になりつつある時期に工場に入ってこられたのですね。
【路生さん】
私は化学系の大学院を卒業後、工作機メーカーに2年勤めた後、父に勧められて半年間語学留学でカナダへ行き、その後に入社しました。
【梶原】
路生さんに英語を学んでほしかったのは、海外販路を開拓しようと思ってのことだったのですか?
【大川社長】
そうですね。これからの時代、英語でもビジネスをしてほしいと思いました。
【路生さん】
繊維系は全く畑違いだったので、糸と言われるとどちらかというと染色に興味がありました。私は材料の方が頭に入りやすいです。

営業担当の大川路生さん
【梶原】
そうなのですね。環境配慮したものづくりをする時代の中で、材料に強いのはとても頼もしいです。これまで展示会に出られたことはありますか?
【大川社長】
20年前にJapan Creationに一度組合で出展し、以前国際アパレル展示会にも2年続けて出展しました。展示会ではいろんな方が基調講演をしていたり、様々なアパレルメーカーさんの目に留まれば良いと思いました。最近はあまり出展できていませんが今後はもっと出展を考えて行きたいと思います。
【梶原】
今はいろんな人が国内で取り組めるニットメーカーさんを探しているんですよ。
【大川社長】
そうなんですね。経営でいうと2011年が弊社のピークで、東日本大震災以降、業界は小ロット、海外産に向かっていきました。それ以降、いまだにパッとしていません。実は自社ブランドを2000年につくりECサイトも作りましたが、なかなか集客ができませんでした。
外部のデザイナーと一緒に始めたのですが売れ行きも良くなく、3年で閉めることになりました。当時はネット販売だと後払い方法でした。販売して商品を発送したお客様からお金を支払ってもらえず、逃げられた経験があり、人間不信になりそうになったこともありました。しかし、ここ最近諦めずに息子とECサイトをもう一度作りましたが、まだなかなか手をつけられていません。
【梶原】
自社ブランドをもう一度立ち上げたいという気持ちはありますか?
【大川社長】
視野に入れています。そんな時、島精機製作所さんからBLUEKNITのお話をもらいました。20年前からEC販売ではボロボロになりちょっと怖いと思っていたので専務に相談しました。売ることにタッチしていなかった専務も販売力のなさを感じていたので、今は昔と違いネット世代がいてSNSとか色々なツールがあるので、島精機製作所さんの力を借りてチャレンジしていくことになりました。
【梶原】
BLUEKNITのでこんなきっかけを作りたいということはありますか?
【路生さん】
まずは工場発の製品販売として、販路のきっかけにしたいです。ものを作るのが工場の強みなので、あとはトライ&エラーでやってみて何が伸びていくのかをこういう取り組みから経験を積んでいきたい。それをゆくゆくは自社の販売の強みにしていきたいです。
【梶原】
時代も変わりましたので、現在はお客様の入金を確認してから商品を発送する体制に変化しています。色々な人とつながることを恐れずに、自社オンラインサイトでも島精機製作所さんと協業した商品をあげてみることも良い経験になると思います。名プロデューサーのお父様が先読みで仕掛けてきたことを脈々と受け継いでいってほしいと思います。
これから先はデジタルが重要になり、写真と説明の言葉が重要になります。「触ってみて買う」から「見て買う」方向に変化しているのでその訓練をしていく。そのようなメーカーさんたちのきっかけづくりのため、BLUEKNITの活動があります。日本の産地が元気でないと、機械も元気ではないと思います。

BLUEKNIT クリエイティブディレクター梶原加奈子
【大川社長】
自分たちが作ったものにまだ自信がありません。しかし商品を良くしていきたいとの想いはあるので一緒に勉強させていただきたいと思います。
【梶原】
これからどんなアイテムを作ってみたいのですか?
【路生さん】
そうですね、例えば、生産の安定供給ができる商品が頭に浮かびます。自分が着たいと思うものを着てもらいたいというビジョンが一番イメージしやすいですね。
【梶原】
究極の形を試作してみるとか、足元にある近くのものを集めた方がいいです。好きなものやことを追い求めてもいいと思います。好きなものから入って良くて、一人一人が興味を持っている部分を追求していいと思います。
【路生さん】
そこを突き詰めていくと商品説明の時に楽ですよね。私も商品ページを担当する時、何を求めているのか、なぜこの商品はこの袖が長いのか、パターン担当は何を背景に作ったのか当事者でないとわからなくて、文章作成に苦労した経験があります。
【梶原】
突き詰めないと、背景など、極端な部分が埋もれてしまうんですね。好きなことを徹底追求していくような熱いWEBサイトができれば今後の原動力になりますね。

様々な意匠糸が工場の棚に置かれている様子

様々な過去のアーカイブ生地が掛けられている商談ルーム
後編 へ続きます。(11月7日公開予定)

BLUEKNIT storeクリエイティブディレクター
梶原 加奈子
北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。
日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランドKANA COLLECTIONを立ち上げ、海外のハイメゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。
2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。
北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。
日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランド KANA COLLECTION を立ち上げ、海外の廃メゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。
2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。