誰もやってないから負けないし、前を見ていたからできた。
群馬県太田市、戦後に発達したニットの町。そんなニット産業も衰退の一途を辿っていた中、世界で最初にホールガーメント機を導入した株式会社イノウエ。ホールガーメントは縫製が必要なく、短納期にも対応できます。更に独自の技術を磨くことで、国内外へ発信し、年間製造量はトップクラスになりました。
今回は、そんな技術を持ち、新たに自社ブランドを発信する社長の井上さんとBLUEKNIT storeのクリエイティブディレクターを務める梶原さんとの対談の模様を、前編、中編、後編の3部に分けてお届けします。
中編では、地域のものづくりに対する考え方や次世代について語っていただきます。
【梶原】
今までの仕事を辞めてホールガーメントでのモノづくりに専念するのは、不安はありましたか?
【井上社長】
そうするしかありませんでした。新しいことにチャレンジするという意味は、他のことは捨てるという意味と同じだと思います。だから高度の技術を持って続けることができましたし、ホールガーメント専門のメーカーになったと思います。
【梶原】
社長の決断力はすごい判断だと思います。
【井上社長】
その決断によって様々なお客さんからの受注を受けることになり、様々な依頼に対応してきました。いろいろやっているうちに合うところもあって、売れるブランドも出てきてやりがいを感じました。難しいものは誰でも出来るわけではないので、私は出来ないことも断らないようにしていました。どちらかというと株式会社イノウエのファンを作る為に、常に前に進むことを意識して仕事をしてきました。
【梶原】
どんなときもポジティブな言葉を使っている井上社長の姿勢に感銘します。弛まぬ努力によって前を向く気持ちを持ち、壁を乗り越えながら未来を切り拓いてきたのだろうと思います。 日本のものづくりは少子高齢化や原料の高騰が続き、これから益々厳しくなっていくなかで、未来に向けて継続するために、何か考えてきたことなどありますか?
【井上社長】
知り合いのニット工場さんにホールガーメントを紹介して特徴や良さを伝えました。そのうち、いくつかの会社が賛同して機械を入れてくれて、今も付き合っています。弊社だけではなく、他のニット工場さんも一緒に続けて残ってほしいと思っています。
私はニット産業がこれからも成長し継続してほしいです。日本の産地として活躍し続けることも重要ですし、その為には外注メーカーも残っていかないとだめです。我々だけではなく、外注の会社皆さんも一緒に続けることが大事だと思っています。
【梶原】
ものづくりを支える皆さんがタッグを組んで続けていくことが大事ですよね。 井上社長は地域に対する想いも深く、人と人の助け合いや繋がりを大切にしているように思います。
【井上社長】
最初からニットをスタートすることは簡単なことではないと思いますが、弊社で教えることはできるのでデータをみせたりもする場合もあります。続けるために必要なことだと思います。
特にこの太田エリアはSUBARU社の大きい工場もあり工業産地として有名な地域です。昔に比べるとニット関連会社がたくさん廃業して現在は10分の1になってしまい、9社ぐらいしか残ってない状況です。もっとニットの産業の良さを伝えたいし、もし我々ができることなら手助けをすることもできるので産業として残こすことが重要だと思います。
次世代にもニットの良さを伝える
【梶原】
産業を続けるために、具体的にやっていることなどありますか?
【井上社長】
毎年文化服装学院の学生が訪れて我々の技術を教えたり、紹介しています。
また、コロナの前は中国やトルコ、イタリアの工場の方々も来てくれました。トータルで50社ぐらい訪れてきましたね。ニットの良さやニット工場でできることをオープンに教えてきました。ニット工場の仲間を増やしこの太田地域のことも広めたいです。人との出会いも重要だし、聞いてくれる人にはオープンにして教えることも大事に考えています。
【梶原】
私もアパレル業界にこのような取り組みを伝えたいですね。 どこに行けばニットを教えてくれるのかわからない方も結構多いと思います。
【井上社長】
そうですね。工場見学ツアーも良いと思いますし、ファッションを勉強している学生さんにも工場をみせたいですね。例えば「あなたのセーターを作っていることころ、見にきませんか?」とか、こんな企画も面白いと思います。
【梶原】
この前、ある学校で社会と触れ合うテーマで講師をしたことがあり、まさに学生からの質問で工場に行ってモノづくりを学びたいですが、どうすればいいか方法が分からないので電話しても大丈夫ですかと質問がありました。
【井上社長】
私たちはいつでも歓迎していますよ。一人ずつより何人か一緒にきてくれた方が助かりますけど。(笑)
例えば、インターンシップ制度もあります。何を知りたいか、何をやりやいか、希望を聞きながら我々にできることはサポートしていきます。お互いコミュニケーションを取りやすい工場になっていきたいですね。太田産地の活性化にむけて教えているつもりでいますが、実は我々が教えてもらっているかもしれません。
中編は以上となります。後編では、時代の変化への対応やBLUEKNITに期待することなどをお聞きしていきます。
BLUEKNIT storeクリエイティブディレクター
梶原 加奈子
北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。
日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランドKANA COLLECTIONを立ち上げ、海外のハイメゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。
2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。
北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。
(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。
日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランド KANA COLLECTION を立ち上げ、海外の廃メゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。
2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。