ものづくりへの想いとサステナビリティ
JR両国駅から両国国技館を過ぎて歩くこと約15分、3~5階建てのビルが立ち並ぶ墨田区にある有限会社フルカワ。時代によって変化する市場を、持ち前の発想力と行動力で柔軟に乗り越えてきました。今回は代表取締役社長の古川昌宏さんと奥様の古川美希さんにBLUEKNIT storeを運営する島精機製作所メンバー(以下、島精機)がインタビューさせていただきました。
後編ではフルカワさんのものづくりに対する想いや製品や事業に対するサステナビリティについてお考えをお聞きしました。
SDGsへの取組み宣言をした企業の証
【島精機】
フルカワさんは、製品へのダイレクトプリントを業界でも最初に取組み、ニット小物専用の新しい横編機を導入した後に、新しい素材である和紙糸と出会い、天然素材というサステナブルな切り口で製品展開されてきました。
サステナブルな取り組みを企業として重要視しているように思えるのですが、和紙糸を使ったサステナブル対応以外では何か実施されていることはありますか?
【美希さん】
ニット生産を行っていると、必ず残糸がでるので、これを使った商品を作れないか検討しています。その他には、紙製の糸管(注:糸を巻くための筒状の芯)も多く残るので、まだ具体的にスタートはしていませんが、創業240年になる紙の老舗商社である中庄株式会社が行っているshokipetasu(チョキペタス)という取組みで使ってもらえないか検討中です。
チョキペタス:http://chokipetasu.com/
【島精機】
さすがにいろいろ考えられているのですね。廃材を使ったキッズ向けのクラフト教室は各地で人気のようですが、そうやって同業以外にも人的なつながりを広げられてきたことが、時代の変化に順応した事業展開にもつながっているように思います。
BLUEKNITの取り組みでは、日本国内産地の存続も重要課題としてあげていますが、この30年間で多くのニット工場が淘汰される中で、事業を継続できた秘訣の様なものはありますか。
フラットベッド型インクジェットプリンターSIP
非常に目が細かい編地が編成できる18ゲージ機
【古川社長】
特に秘策というものがある訳ではなく、目の前のことを一生懸命対応してきたら今に至っているという感じですが、会社としての規模が小さい分、機動性が高く、世の中の変化に対し、機敏に対応できたからではないかと思っています。島精機さんが開発した新しい機械を使って、新しい分野にチャレンジし、進む方向の微調整をしてきたことが良い結果につながったのかもしれません。島精機さんが今後も良い機械を作ってくれれば、アイデアも生まれて新たな推進力になります(笑)。
【美希さん】
(新しい機械を作ってくれるなら)リモートで運転できる編機が欲しいです。
【古川社長】
さまざまな産業での自動化が進む中で、なかなか繊維産業は自動化が進まない印象です。やはり扱っているのが柔らかい製品なので難しいのでしょうか。
【島精機】
現在の技術では、編機のリモート操作も不可能ではありませんが、安全性の課題が大きく、そこまで行っていません。また、機械による生産がストップする原因の最大の要因は糸切れなので、これはリモートでは対応が難しい課題です。
ちなみにフルカワさんでは、どのように商品を企画するのでしょうか。
【美希さん】
自社で企画している商品は、「あったらいいな」をベースに考えています。附属品生産を中心に行ってきましたので、とにかくアパレルのお客様に満足していただける品質をつくり出すことを特に大切にしています。また、紐編機も自社にあるので、パーカーと同素材での様々な太さ、ゲージで紐を作れるなど、小ロットでも最終製品まで一貫して対応していくことも、当社のこだわりと言えるかもしれません。
紐編機も複数台所有し、ボディと同素材のパーカーなどに利用
【島精機】
ニットとプリント、後工程まで含めて全てお願いできるのは大きな強みになっていますね。いままでお話をお聞かせいただいて思ったのは、一番のフルカワさんの強みは「新しいことに果敢にチャレンジする姿勢」ではないかと思います。製品は同じ設備を整えれば真似できても、経営姿勢を真似る事は難しいと思います。一般的には儲かっている人を見て真似をするケースが多いと思いますが、フルカワさんは全く逆で、人がやらない事ばかりを選択されている。それぞれの新事業では、ご苦労されながらも、なんとかビジネスに仕上げるスキルと根気で、結果として先行者利益が得られているのではないかと思いました。
【古川社長】
母方の先祖は清水次郎長の子分だったと聞いたことがあります。母親も大変な新しいもの好きで、それが私にも遺伝しているのでしょう。
左:古川昌宏社長、右:古川美希さん
【島精機】
話は変わりますが、お二人はまだまだお元気で今後も最前線で経営されていくと思いますが、少し先の事業承継や事業展開について何かお考えなどございますか。
【古川社長】
正直あまり先の事は考えていないですが、やはり自社製品の割合を増やしていきたいと思っており、一つでもいいので競争力があり、代名詞になるような商品が出せているようになれば、事業を継ぎたいという人も出てくるのでは、と期待しています。
【美希さん】
地理的に浅草がすぐ近くで海外からの観光客も多いので、インバウンド需要には期待しています。
オリジナルブランド “wasi x wasi“の製品
和紙だけではなく、ウールを使った製品も
【古川社長】
経済産業省などが後押しする海外向け商品の展示会などにも参加しており、将来的には和紙製品の輸出ができればと思っています。そのような形で今までとは違う方向で成長していければ、事業は世代が変わっても継続していけるものでしょう。
オフィスにあった立派な神棚
取材を終えて
終始和やかな雰囲気でインタビューに応じてくださった古川昌宏社長と、奥様の美希さん。一つの話題から話が多岐に展開する楽しい対談で、あっという間に時間が過ぎてしまいました。それも常にいろいろなアイデアを巡らせて、新たなチャレンジを挑んでいるフルカワさんのスタイルなのだと、対談をまとめながら改めて思いました。
元々メリヤスの大きな産地だった東京都黒田区は、時代の移り変わりで様変わりしましたが、ネット検索をしてみると、現在も多くの企業が残っているようで、ニット関連の最終製品の企画、販売を行っている会社もあるようです。フルカワさんの様に、時代の変化に柔軟に対応し、独自の進化を続けるたくましい企業文化がここ両国には息づいているように感じました。
フルカワさん独自のプリント技術で、BLUEKNITの商品ラインナップの幅を大きく広げてくれることを期待しています。