佐藤繊維株式会社 中編 勇気が一番の財産

佐藤正樹社長

勇気が一番の財産

山形駅から田んぼの中を走る電車に乗り、田舎の風景を眺めながら向かった寒河江市にある佐藤繊維株式会社。90年以上前からウールの糸を紡ぎ、世界と日本の架け橋となりオリジナルの素材や製品を日々研究している紡績ニット工場です。今回は挑戦をし続ける代表取締役社長の佐藤正樹さんとBLUEKNIT storeのクリエイティブディレクターを務める梶原加奈子さんの対談の模様をお届けします。中編では、海外でビジネスを始めた時のことや日本市場との差について語って頂きます。

左:代表取締役の佐藤正樹社長 右:BLUEKNIT storeクリエイティブディレクター 梶原加奈子

左:代表取締役の佐藤正樹社長 右:BLUEKNIT storeクリエイティブディレクター 梶原加奈子

【梶原】

佐藤繊維さんは、20年ほど前から海外の展示会に参加してきたと思います。そこで色んな経験を重ねたことが今の開発に繋がっていると思いますが、その頃にどのような壁を乗り越えてきたのかお聞かせください。

【佐藤社長】

イタリアの展示会は、最初は全く相手にされませんでした。やはり羊の文化をゼロから作り出したのは彼らなので、真似しているとしか思われない。

ヨーロッパの人は羊文化にものすごくプライドを持っているのです。ウールは最高クラスの原料とも言われています。

佐藤正樹社長、梶原加奈子対談の様子

【梶原】

Loro PianaやZegna Baruffaなどイタリアにはウール発祥で今でも活躍しているブランドがありますよね。佐藤社長は最高クラスのウール強豪ぞろいのイタリア展示会で、どのように進展しましたか?

【佐藤社長】

工場の古い機械を改造して、試行錯誤していました。世界的にも原料に対して生産の仕方が決まっていましたが、機械や常識に頼らず自分で考え、そのルールを壊したら新しいものが生まれ、ヨーロッパにはなかった極細モヘアの開発に成功しました。

糸を撚る前の原毛 古い機械と向き合うことで独自の糸を生み出している

糸を撚る前の原毛 古い機械と向き合うことで独自の糸を生み出している

【佐藤社長】

極細モヘア糸をイタリアの展示会に出してから受注が取れるようになりましたが、リーマンショックの影響で販売価格が高騰してしまい、受注が全部キャンセルになってしまいました。とてもショックで諦めかけましたが、ある日突然『面白い糸を作っていると聞いたので資料送って欲しい』とパリのハイメゾンから連絡がありました。こちらの提示した価格は全て通り、資料を送った翌年のコレクションのひとつであったドレスにうちの極細モヘアの糸が使われました。それがまた話題となり注目が集められたので、諦めずにもう1度立ち上がる気持ちで翌年も展示会に出展しました。

【梶原】

価値を評価し続けてくれた欧州ハイメゾンの感性が架け橋になったのですね。佐藤社長の諦めない勇気が次に繋がる道をつくったのだと思います。

【佐藤社長】

そうですね。世界で最も高価な糸のうちのひとつなので、再び挑戦した展示会のではブースデザインも独特な表現にこだわり、今まで参加した展示会の中でも一番反応が大きく成功を収めることが出来ました。リーマンショックがなければ、今の私たちはなかったかもしれません。あそこで辞めなかった勇気が私の一番の財産です。

佐藤正樹社長

独自性を持ってブランドを育てる

【梶原】

海外市場では製品卸の他にも現地パートナーショップでの販売もされていますが、どんなところに日本との差を感じますか?

【佐藤社長】

日本の国内だけだと、自分では良いと思っても売れずに評価されないものが、海外に見せていくと異なった評価を得られることがあるのです。個性的なデザインを楽しんでくださるお客様と出会い交流を続けていくことで、独自性があるブランドとして成長できます。海外と繋がりを持つことで、ものづくりに挑戦していくことに前向きになれます。

工場の隣に並んでいる自社セレクトショップ「GEA」の外観

工場の隣に並んでいる自社セレクトショップ「GEA」の外観

「GEA」セレクトショップの内装では古い機械をテーブルとして活用している

「GEA」セレクトショップの内装では古い機械をテーブルとして活用している

【梶原】

私も海外で仕事をしていると、物の良さを見抜いてピックアップしてくれるバイヤーさん達とやり取りする機会が多いです。ブランド名以上に、商品の力を見てくれているように感じます。
技術のこだわりについても関心が高く、色々質問してくれるので商談では盛り上がります。
また日本のものづくりをリスペクトしている人たちも多いように感じます。

【佐藤社長】

今の日本は、話題性が評価基準だから、難しいですよね。海外市場でビジネスをしていると、どこのお店に入っているブランドなのかで見る目が変わるので、海外市場でビジネスをし、評価されることで、日本市場でも発信がしやすくなった事は確かであります。

梶原加奈子

【梶原】

新しいブランドが育ちにくい時代ですよね。話題作りを仕掛けていくことは、知られていくために必要ではありますが、それだけに偏らず、継続的な顧客を育てていくには商品自体にも魅力が必要だと思います。使用した時の満足感が次の機会を生んでいくと思いますが、今は人と人の繋がりや社会や環境を考えるようなものづくりの背景を知ることで共感が広がる時代です。
どんな人がどんな風にこだわって作っているのか、語れる背景を伝えていく事も大事だと思います。他と差別化がある、自分たちにしか出来ない提案を磨いていく視点を大切にしていきたいと思います。

工場内には、いろいろな糸が並んでいる

工場内には、いろいろな糸が並んでいる

【佐藤社長】

売れてるから作るのではなく、その工場が持っている強みを活かすことが今の時代に必要です。独自性を失わないために。日本のメーカーが勝つにはそこだと思います。国内の工場が徐々に減少していますが、加速化する廃業を止めなくてはなりません。作り場を失わないために、今まで関わりがあった染色整理工場やレース工場をグループ傘下として経営している他、廃業された織物工場から機械を引き継いだりもしています。

【梶原】

佐藤社長の日本の工場を思う気持ちから取り組みが広がり、益々パワーアップしていきますね。 糸や編地だけではなく、色や風合いのこだわりを大事にしていることも、工場を見学してよくわかりました。新たな機械の導入にも積極的で驚きます。佐藤繊維さんでしか出来ない工場の体制を拝見し、日本にこのような独特なものづくりの環境があることに感銘を受けました。ここからどんな服が生まれていくのかとてもワクワクします!

佐藤正樹社長

中編は以上になります。後編では、サステナブルや若手の人材育成、今後の目標について伺っていきます。

後編「廃棄につながらない洋服づくり」へ続く。

BLUEKNIT store クリエイティブディレクター 梶原加奈子(かじはらかなこ)

BLUEKNIT storeクリエイティブディレクター

梶原 加奈子

北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。

(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008年KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。

日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランドKANA COLLECTIONを立ち上げ、海外のハイメゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。

2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。

北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。

(株)イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。2008KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立。

日本産地の素材を集結させたテキスタイルブランド KANA COLLECTION を立ち上げ、海外の廃メゾン向けに素材を提案。クリエイティブディレクターとしてもブランディングや地域活性化と連携。札幌の森にショップ、ダイニング、ゲストハウスの複合施設「COQ」を立ち上げ、自然と共に過ごすサーキュラーライフバランスを発信している。

2022年より(株)島精機製作所が立ち上げたサステナブルECモール「BLUEKNIT store」のクリエイティブディレクターを務めている。

PROFILE

佐藤繊維株式会社

佐藤繊維は1932年、山形県寒河江市にて紡績業を生業とし創業した紡績・ニットメーカーです。糸づくりから製品の仕上げに至るすべての工程において「日本のものづくり」を大切にし、独自の目線と自由な発想で、オリジナリティ豊かな製品を世界に向けて発信しています
創業当初から続く紡績部門は、ウールや獣毛系の特殊形状意匠糸や工業用紡績糸に加え、近年はコットンやリネンなど植物性天然繊維の企画開発にも注力しています。
経済産業省の「次代を担う繊維産業企業100選」に選ばれました。
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